chynna drug opera

BEST ALBUM OF THE YEAR 2021

Best 1

Drug Opera

Chynna

これほど透明に澱んだアルバムは滅多にない。ファッション・モデルとしても活動していた女性ラッパーChynnaのファーストにして、ラストアルバム。彼女の死去が2020年4月8日、アルバムのリリースはそれから一年以上が経過した2021年8月。もはや世間が彼女の死を忘れかけていたところにドロップされたこのアルバムは、レーベルがNYのインディーズ ‘TWIN’ということもあり、まさに密葬の如くひっそりとリリースされた。「死体ビジネス」という言葉がある。私の経験になるが作家の中島らも氏の死去が発表された日、大手取り次ぎ会社に自分の作った本のセールスのためにたまたま居た。そのとき館内放送で、「作家の中島らもさんが亡くなりました。至急、関連書籍、雑誌を集めてください」という旨のアナウンスで「そりゃそうだよな」と内心で苦笑しつつ黙祷した。このアルバムは彼女の27歳の誕生日にあわせてリリースされたのだが、結果的に「死体ビジネス」に巻き込まれることなく、必要とする者たちだけに届くような絶妙のタイミングになったと思う。これには少なからずコロナ渦も関係してると思うが。

プロデュースは故Lil Peepを手がけたNedarbとクラウドラッパーのSuicideyear。決して生前の未発表テイクを掻き集めたアルバムではなく、トータルに作り込まれたアルバムである。生前にアルバムの録音は終わっていたが、彼女の訃報を受けてからポストプロダクションに膨大な時間をかけて完成させたという(出典:Boomkat。同時期に2ndが発売されたBillie Eilishと対比しているところもちゃんと仕事しています)。音はTRAPから贅肉を削ぎ落としたDrillに近い。そして甘く虚無的な中毒性がある(like a china White)。これを2021の一位に選んだのは「いちばん聴いたから」。一日中リピートして聴いたりもした。そういった意味ではアンビエントでもある。2021の狂った世界を正しく映したアンビエント。カバーアートも含め、痛々しくも美しい。そう、美しいのだ彼女は。14歳から大手モデルエージェンシーに属し、タフな競争社会で精神と体型を保つために薬物依存となった少女の短い一生。Drug Operaで主人公を演じるのは彼女自身。作品として客観視することは叶わず、シンデレラはTRAPに嵌まって逝ってしまった。「Burnout」という曲がある。呟くようにライムされるBurnoutは、イギー・ポップが69年に叫んだBurnoutとは正反対の意味を持つ。時代は間違いなく過酷な方向に向かっている。

もちろん、このアルバムにフィジカルはない。質量を持たない思い出はすぐに忘却されてしまう。質量のない商品を質量のない金でクリックし決済は完了する。人間は忘れる動物だ。だが、Drug Operaは心に傷跡を残す。忘れたいのに忘れられない傷跡だ。ありがとう、Chynna。Be Careful Baby. Rest In Peace. 俺はもう少しだけ生きることにしたよ。

UnknownOJI

from North Side Tokyo OJI, wiz LOVE.

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