FAR BEYOND LIGHTSPEED
日本の80’s暴走族を題材にして作られたヴェイパーウェイヴ作品。カセットテープとデジタル配信でのリリース。ディスクユニオンからの情報によると”トロント在住のvaporwave/synthwave職人。過去に多数の名義で大量のvaporwave作品を制作している。日本マニアだが、日本語はあまりわからないらしい。本人曰く「10年ほど自宅から出ていない」”ということで、ヴェイパーウェイヴ史観に則った「幻想の暴走族」がシンセの波上を疾走していく。あの時代のど真ん中を生きた者としてはシンナー臭さとヤニ臭さが足りないとは思ったものの、こうして作品化してくれる海外の若者がいるということが素直に嬉しい。音声は柳町光男監督の映画『ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR』からサンプルしたものだろうか? ちなみに柳町監督の二作目『十九歳の地図』(原作・中上健次)は筆者の地元北区王子で撮られていて、この作品がのちに尾崎豊の『十七歳の地図』に繋がっていき、日本全体が”盗んだバイクで走り出す”狂乱の時代に突入していく。日本では”バブル”とされていたあの時代が海外では”ヴェイパー(蒸気)”に形を変えて、より幻想的で儚いイメージになっているのも面白い。この作品自体も暴走族を儚い存在として捉えているようで、疾走感よりも喪失感が勝る、聴いていると切なくなる作品だ。この作品に寄せた作者自身の言葉が一編の詩のように美しいので最後に引用する。”かつて、日本には「暴走族」という少年達がいました。 盗んだオートバイにまたがり、最大1000本の国道を封鎖するセンセーショナルな存在として認識されました。 彼らは無法者でしたが、懲戒処分を受け、敵対的な「族」と容赦なく闘いました。 どういうわけか、それらのほとんどすべてが今無くなっています。 それは蒸気のようなものです。 レクイエムの代わりに紡いだ思い出をあげます。”