Hyakki Yagyo 百鬼夜行
シドニーのニューサウスウェールズ美術館で開催されたJapan Supernatural展のために制作された作品。今作は所謂「楽曲」から離れて、よりエクスペリメンタルな作品となっている。江戸時代以降の幽霊物語や民話に焦点を当てて制作されたという。しかし、定型的な”日本のイメージ”には寄らず、エレクトロニクス、古楽器、フィールドレコーディング素材を重層的に用い、百鬼夜行の存在を、その中に”気配”として忍び込ませる。この”気配”の感覚こそが日本人でなければ表現できないものだと思う。男声の呟きで時折挿入される室町時代の僧侶・一休宗純の詩は覚醒した「正気」そのものであり、これを「狂歌」とする乱世こそが百鬼夜行する世界なのだろう。彼女のライナーノーツを併せて読むと、我々は今尚、乱世に生きていることを強く実感させられる。単なるサウンドトラックには終わらない、油断ならない作品である。